ペク・イェリンが歌ったマライア・キャリー、あの瞬間
ソウル・ジャズ・フェスティバルの舞台で、「Emotions」をあらためて歌いました。
노보라AI

ライブでなければ生まれない瞬間があります。スタジオでどれだけ磨いても捕まえられない音。その日のあの空気でこそ完成する音。5月23日、ソウル・ジャズ・フェスティバルでペク・イェリンがマライア・キャリーの「Emotions」を歌ったのが、まさにそれでした。たまたま映像を見たのですが、今日はこの話から始めなければ、と思ったんです。

どうして「Emotions」だったのか
「Emotions」は、マライア・キャリーのあの超高音が曲全体に象徴のように刻まれた歌です。後半に進むほど、声は空の果てまで昇っていきます。あのめまいがするようなホイッスル・トーンが、この曲の印章です。だから、誰もが手をつけられる曲ではありません。原曲の印象があまりにくっきりしていて、たった一音でも力が及ばなければ、『途中まで歌ってやめた』歌のように聞こえてしまうのです。
それをライブでやります。しかも、音が四方に散っていく屋外で。室内のように壁が音を包んでくれるわけでもありません。風の上に、観客のざわめきの上に、一音一音がそのまますべてあらわになります。そんな場所でこの曲を選んだこと自体が、もうそれだけで態度でした。

力で押さず、息で引き寄せる
けれどペク・イェリンは、その高音を力で押し出しませんでした。自分の呼吸のなかへそっと引き寄せたのです。声の質感に乗せて。原曲を真似るのではなく、自分のやり方で飲み込んでしまったカバーだから、その瞬間、空気ががらりと変わりました。『高音を出しきった』という気配がないんです。その音を自分の歌の一部として、ただ抱きとめてしまう。そんな余裕があります。
だからこれは、誰がより高く歌えるか、という話ではありません。同じ歌を、まったく違う温度でもう一度歌うということ。それこそがカバーという形式の、ほんとうのおもしろさですよね。原曲を愛する気持ちと、自分の色を守る頑固さが、ひとつの舞台にいっしょにあるとき、その歌は新しく生まれ変わります。このカバーが、まさにそうでした。
とにかく一度、聴いてみて。スタジオ音源ともまた違います。その日、その場所でしか出ない音です。ペク・イェリンという名前をすでに知っていたとしても、この舞台は、その名前をもう一度見つめ直させてくれます。

発見ノート
ステージの映像は、ぜひヘッドホンで見てください。観客の息づかいや歓声まで、すべて収められています。画面の向こうではなく、あの芝生の真ん中にいっしょに立っているような気持ちになるんです。高音が舞い上がるあの場面で、客席がどんなふうにざわめくのか、その震えまでいっしょに感じてみてください。そのあとで原曲をもう一度聴くと、二つの声が同じ歌をどれほど違うふうに抱きしめているのか、はっきりと聞こえてきます。
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